黄金羊の観劇記

観劇・映画・読書の感想を好き勝手に書いてます。東宝・宝塚・劇団四季中心、海外ミュージカル(墺英米)贔屓、歴史好き。

映画「刀剣乱舞-継承-」感想

Twitterのフォロワーさんに好きな人も多く、タイムラインに色々な情報が流れてくるのでフンワリとは知っていました、刀剣乱舞

原作のゲームをやる気は起きないけれど、フォロワーさん達がお話されている内容をもっとよく理解できるようになったら嬉しいし、巷で有名な鈴木拡樹も見てみたかったので、アマプラで見つけて即鑑賞。

評判が良かったので期待はしていましたが、脚本も映像も役者も想像以上に良く、最後まで飽きず目も離さず、とても楽しく視聴できました。

 

最初は若くて美形の刀剣男士達が華やかな衣装で派手なアクションを繰り広げる、仮面ライダーやヒーロー戦隊物に近い「特撮映画」のように見えたのですが、話の主な舞台が戦国時代の日本なので、見ているうちにどんどん「歴史大河映画」要素が強くなり、良い意味で驚きました。視聴後の印象は「大河と特撮のハイブリッド歴史映画」。

 

とにかくまず脚本が巧い。クライマックス直前で視聴者を驚かせて盛り上げ、ラストまで一気に駆け抜けて綺麗に落とす。流石俺たちの小林靖子様!!!(去年見た仮面ライダーオーズシンケンジャーもすごく面白かった)

 

大河部分を担う登場人物の中では、豊臣秀吉役の八嶋智人さん、織田信長役の山本耕史さんの演技と存在感が特に抜群。お二人のどちらかが画面に出てくると、彼らが生きている世界にどっしりとした重みや深み、軽妙な軽さや人間ドラマが加わり、説得力と現実みが増した。

甲冑や着物などの衣装や小物も安っぽくなく、細部まで見ていて楽しかった。

 

刀剣男士達のビジュアルや衣装、時間遡行の設定にはやはり軽さやツッコミどころを感じて、それだけが残念でしたが、あれはもうああいうもの、「世界観」として割り切る必要がありますね…。

歴史改変したい人達と戦うのはいいとしてどうしてそれが審神者という個人&刀の付喪神なんだ、2205年の各国政府は何をしているんだとか、遡行してから戻ってくる時に時間指定は出来ないのかとかいう浮かび上がる疑問はねじ伏せて、あの世界をとりあえず肯定・丸ごと受け入れられるかどうかが、この映画を楽しめるかどうかの分かれ目かもしれない。

 

刀剣男士の役者さん達は、ビジュアルも中身も、全体的に「原作のキャラクターに寄せる」大きな努力が見えましたが、それに関する良し悪しを感じました。特に中身、キャラクター性において。

刀剣男士達の行動や言動の指針、キャラ作りは多分「あのキャラならこういう振る舞いをするだろう」という考えに基づいてなされていて、そこからはみ出さないのです。信長や秀吉に比べると、どうしても人間性の薄さ・浅さを感じる。そこが非人間的で刀剣男士らしくもある、と好意的に解釈することも頑張れば出来ますが、やはり芯から人を惹きつける魅力というてんで物足りなく感じます。

原作のゲームありきの映画で、劇場へ足を運んだりDVDを買う層のほとんどがおそらく原作のファンであることを考えれば、登場人物達は「いかにゲームのキャラに近づけるか」が大切なのでしょうし、そうしたい気持ちはわかるのですが、その方針が映画では逆に、キャラクターやそれを演じる役者さん達の魅力を押し殺してしまっているように感じました。唯一日本丸だけは、若干振る舞いに磊落さが見られて安心感があったかな。

 

そして、そんな刀剣男士達の中で、主役扱いの三日月宗近こと鈴木拡樹は、その「キャラクターとして存在する自己」を最も磨き上げているように見えました。 生きている人間ではなく、「2次元のゲームキャラとはどんな存在か」を徹底的に考え、その所作、口調、抑揚、表情の作り方まで追求している。

アップで映った場面で、一つ一つの表情の丁寧な作り方と、一瞬のトメ、その後の流れるような変化の連続を見て鳥肌が立った。こんなことを出来る役者さんがいるのかと。

鈴木拡樹の演じ方は、二次元のキャラクターを膨らませ複雑化して三次元の人間にするのではなく、逆に三次元の自分から色々な余計な物を削ぎ落とし濃縮して枠に嵌め、二次元のキャラクター化=単純化しているような印象を受けました。こう書くと、彼の演技の方向性は能に近いのかもしれません。宝塚とはまた違う独特な様式というか、今まで見たことのない演技の文法のような物を感じ、目から鱗が落ちました。

藤原竜也柿澤勇人といった憑依型とはまた違うけど、この人すごく「演技」の才能がありそう。

刀剣男士達は大河ドラマ勢とは明らかに作中での存在感、雰囲気が違い、若干浮いていると言えなくもないのですが、鈴木拡樹の三日月宗弘は、山本耕史織田信長と相対して負けていなかった。もちろん若干山本耕史の方が上手なのですが、鈴木拡樹、良い勝負をしていた。血の通う「人間」として物凄い貫禄と存在感を放ってくる耕史信長に、非実在的な「キャラクター」としてそこに在るにも関わらず存在感で負けてないって、すごいよ拡樹宗近。

 

鈴木拡樹、これから是非色々な舞台、作品に幅広く出てみて欲しい。2.5次元舞台での彼の完成度が高いのは映画を見てなんとなく想像出来たのですが、キャラクターではなく人間を演じてみて欲しい。外の役者と共演を重ねてその文化を吸収すれば、もっと巧くなるんじゃないか、もっと化けるんじゃないかという予感がしました。

 

鈴木拡樹を初めて見たので、印象を書き留めておこうと彼のことばかり書いてしまいましたが、今回の映画で一番面白かった点は「歴史if」の脚本のうまさです。

「もしかしたら本当にこういうこともありえたかもしれない」というフィクション部分の作り方が大変巧く、その上核心になる部分の情報が、登場人物達が「刀剣の付喪神」でなければ得られなかった物で、「刀剣乱舞」だからこそ出来る、「刀剣乱舞」でなければ出来ない素晴らしい物語だった。私が原作ファンだったら、この映画化は物凄く嬉しいと思う。

 

テーマのまとめ方も美しかった。本編が終わり、最後に「刀剣乱舞ー継承ー」というタイトルが出てきた時には、信長から秀吉へ、先代審神者から新たな審神者へ、そして刀剣達へと受け継がれた様々なものが、「継承」の二文字で見事にまとめられていて感動しました。

 

2時間があっという間でしたし、また見返そうと思う映画でした。

見て良かった!