黄金羊の観劇記

観劇・映画・読書の感想を好き勝手に書いてます。東宝・宝塚・劇団四季中心、海外ミュージカル(墺英米)贔屓、歴史好き。

三谷かぶき「月光露針路日本 風雲児たち」感想

シネマ歌舞伎で見てきました!!

良かった…良かったです…むちゃくちゃ胸いっぱいになりました…

そして思った以上に抉られて観賞後映画館のロビーで膝から床に崩れ落ちそうになりました。

 

興味を持ったきっかけは歌舞伎だけど舞台がロシアで、エカチェリーナ2世が出るということでした。
脚本三谷幸喜だし、サタデーナイトフィーバーみたいな楽しそうなポスターだし、コロナ禍で海外にもいけない状況なので、「きっと三谷幸喜のいつものコメディだよね、楽しそう!ロードムービーか〜いいな〜ロシア旅行気分味わえるかな〜!!」という気持ちでウキウキと観に行ったのですが、そんな気持ちで見に行っていい舞台じゃ全くなかったよ・・・・・・・・・・・・・・・・・。

 

いや面白かったですよ!!!めっちゃ良い舞台見せてもらいましたよ!!!!

脚本も演出も役者の演技も素晴らしくて胸打たれる舞台でしたよ!!!深く胸打たれましたよ!!!

ただ予想とちょっと違う方向だった。

期待して見に行ったら期待以上の感激を覚えて結果的に体験としては大収穫だったんですけど、ケーキバイキングのつもりで入店したらお寿司の食べ放題だったみたいな!!結果的に舌もお腹も大満足なんだけどなんか欲しいものとは違ってたみたいな!!

 

ロードムービーロードムービーでも南極探検隊のドキュメンタリーに近いですよ、と誰か教えて欲しかった。

過酷な極限状況、生と死の狭間で命がけの探索を続けた男達の話でした・・・・・・・。

これこんな明るいポスターとポップな文体で売っていい舞台か・・・?

宣伝ムービーも見たけどやっぱり軽くて楽しいアクションコメディかなと勘違いしてしまう雰囲気でしたよ!!??詐欺では!!!?!?

ギャップのおかげで余計に深く心を抉られてしまったので、宣伝部には売り方の方向性についてぜひ再考願いたいです・・・。

 

物語についてはほぼ何も知らずただ「バタバタと死んでいく」ということをチラリと耳にしていたくらいだったのですが、何も知らない状態で見て良かったです。

「面白かった」とかそんな一言ではとても済ませられない。

軽いコメディなどではなく、人間や人生、神や運命について深く感じ入り、考えさせられる骨太の歴史大河群像劇でした。

特に終盤の脚本と役者さんの迫真の演技によって、重量感はレミゼラブルよりも重かった。今まで見てきた舞台の中でもこれより重い舞台はあまり思い出せません。

 

特に一番胸打たれたのは、市川猿之助さんの庄蔵です。

序盤中盤も素晴らしい台詞回しと動きで観客の目を惹きつけ笑いをとってたけれど、そのキャラからのあの最後の別れの悲嘆。

歌舞伎役者さんって、生き死にというか人生の全てが乗っかったような演技がこんなにハマるんだなあ。迫真の演技、魂の慟哭を見せて頂きました。

普段歌舞伎は見ないのですが、歌舞伎役者さんってこんなに凄いんだと感動で震えた。 

 

庄蔵と新蔵の顛末が、この舞台で一番深く抉られたポイントでした。

最後に分かった事情とその後明かされた心情があまりにもあまりで、神も仏もない無慈悲さが「現実(リアル)」って感じですごく良かった。
そしてあの最後の最後に本音を吐露せずにいられなかったのが「人間」でとても良かった。

そして本音を言葉にしてしまったせいでそれまで張っていた虚勢が崩れ落ち、「日本に帰りたい」「これからどうしよう」とボロボロになってしまった庄蔵に、「大丈夫だ」と言って寄り添ってくれる新蔵がいてくれて本当に良かった。

あまりにも悲惨で無惨な運命と世界の中に置き去りにされることになってしまった庄蔵に、最後の希望として残された(観客に提示された)のが新蔵という一人の人間、神でも仏でもない一人の人間の自由意志によって最後の救いがあの場にあったという脚本演出がとてもとてもとても良かった。

マリアンナのこともあったとはいえ、どう考えても新蔵が聖人すぎる。どうしてそんなことができるの!!!??(号泣)

死んでいった皆も辛かったけど、ここまで生き残ったのに最後の最後であんな運命になってしまった庄蔵と、そしてそれに寄り添うことを決めた新蔵に一番胸を打たれた。

 

片岡愛之助さんの新蔵も本当に良かった。途中までどういう性格なのか掴みかねていたけれど、サンクトペテルブルクで光太夫に再会し改修を告げた場面から最後まで、怒涛の勢いで株が上がり最終的に天井突き破って退場した感じ。

新蔵は来世でめちゃくちゃ幸せになってほしいし、今生でもめちゃくちゃ健康かつ幸せに長生きして大団円大円満に大往生して欲しい。

庄蔵と新蔵、一年後くらいにはデキてるよね…?
あれでデキなきゃおかしいよ…二人とも辛いけどどうかどうかあそこからなんとか幸せになってほしい。

 

ロシア正教に改宗してしまったらもう日本には戻れないんだなあ…。

そうなんだ…知らなかった…そうかあ…ああ…なるほどそれは…(頭で当時の時代背景を復習)仕方ない…んだろうなあ…激重。(抉られる心)

冒頭で伊勢の神様に言及した後、終盤で新蔵と庄蔵が改宗して帰国不可能になってからの、最後の光太夫の「もう神になど頼らない」という叫び…。

エカチェリーナとの謁見の場面での「たとえ死んでも魂になって日本に帰る」という台詞、そうくるだろうなと思ったけど、終盤で「皆ここにいる、皆一緒に日本に帰るんだ」と言って、亡くなってしまった仲間達の名前を光太夫が呼ぶという回収はたまらなかった。

最後に流れた主題歌の歌詞が耳に残るんだけど、
「走れ光太夫 泣くな光太夫
って鬼かと思った。
太夫は走りを止めて地面に崩れ落ちても許されるし泣いていい。
頑張った…光太夫めちゃめちゃ頑張ったよ…。

私自身が海外に出て二度と日本に帰れなくなったら、果たしてそこまで切実に日本に帰りたいと思うかというとちょっとわからないので、感覚が違うなあと思ったけど、それはインターネットや翻訳ソフトが発達した現代に生きてるからなんだろうなあ。

 

キャラクターとしては、メインの3人以外では磯吉とキリル・ラックスマンが好きでした。

磯吉が最後まで生き残って本当に良かった。彼が死んでいたらきっと映画館の座席で真っ白になっていたと思う。

キリル・ラックスマンは動きと台詞にめちゃくちゃ笑った。八嶋智人さん巧い。

 

エカチェリーナとポチョムキンは登場を最初からずっと楽しみにしていましたが、実際出てくると全く期待を裏切らない威厳と存在感で嬉しかった。

宮廷場面の衣装は絢爛豪華で目の保養でした。帝劇で見慣れたロココなドレスを歌舞伎で見られるなんて!

 

全体としては、歌舞伎というよりほぼストプレイの感覚で見られましたが、所々挟まる歌舞伎の演出と所作がピリッときいててとても良かった。
音にハマった歌舞伎の動き、見ていて気持ち良いですね!!プロの安定感と貫禄!!

 

これ原作は一体どんな世界観なのかな〜。舞台まんまなのかな?

あの絵でこの物語なの…!!?みなもと太郎先生!!

舞台がとても面白かったので、原作も読んでみたいです。三谷幸喜の脚本力も大きそうだけど。

三谷幸喜の作品は本当にハズレがないですね。観に行って良かったです!