黄金羊の観劇記

観劇・映画・読書の感想を好き勝手に書いてます。東宝・宝塚・劇団四季中心、海外ミュージカル(墺英米)贔屓、歴史好き。

東宝版「モーツァルト!」2021年山崎育三郎ヴォルフ東京千秋楽感想

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<2021年4月26日(月)17:45公演 B席2階J列センター>

 

今季取っていた唯一の「モーツァルト!」のチケット。

緊急事態宣言の発出が決まった時にはもう見られないかと思いました。

結果的にこの日が育三郎ヴォルフ・香寿男爵夫人・深町アマデの3人の東京千秋楽の日になりました。残りの公演の中止を余儀なくされた主催者、出演者、関係者の皆様の胸中を思うとやり切れません。

状況が状況だけに、普段より一層胸に沁みました。
役者の方々の演技にも熱が入っていました。特に育くんの気迫がすごかった。

 

2021年版は、前回の2018年版よりも若干良くなった印象。

2018年にマイナス40点(存在しない方が良い)だと思った「破滅への道」の場面、30点くらい(まあ存在しても良いのかな…?)になってた!!まあなくてもいいと思うけど!!
二幕のコンスの出番はやっぱり多すぎるし削った方が良いように思う。

演出にはやはり色々不満もありますが、役者さんたちの力量でなんとか間が埋まり物語や人物感情の流れも…出来ている…かな?と思えました。

2018年版の印象が余りにも悪かった(観終わった後、ご一緒していたフォロワーさんと絶望を分かち合うのが辛かった)ので今回は観劇を見送ろうかと思っていたのですが、観て良かったです!

 

 

今回のM!は才能の話には見えなかったなあ。なんだかアマデの存在感が薄くて。

一番存在感が強かったのが市村パパ、次は育ヴォルだったけど、二人はちゃんと愛し合ってて、「なんか仲違いっぽいことを表面的に口では言ってるけど、最初から最後まで愛の深い仲良し親子」に見えた。

家族が決裂する話にも見えず…ウェーバー一家が悪役に徹してれば良かったけど、ウェーバー一家は一家でパワーが弱くて、モーツァルト一家があんなのにどうにかされるようにも見えず…

あえていうなら「市村パパが老親だったせいで、若親だったら問題なかったであろう家族が崩壊してしまった」感じかな…介護の問題???(違う)

テーマは行方不明でした…。

 

育ヴォル。花道の真ん中で正座して顔をぐしゃぐしゃに歪めて泣きながら「これからは自分の道歩むんだ、一人で」「でも答えてほしい、何故愛せないの、僕を」と絶唱する育ヴォルの何故愛せないの、とても良かったです…!!

ただ、影から逃れたいようには見えなかったな…育ヴォルが今一番逃れたいのはコロナだろうな(すみません)

育ヴォルは一幕よりパパからの自立後の二幕の方が良かったな。ヴォルフとしては賢く落ち着いていると思うけど、歌唱部分の気迫に魂を感じたからよし!!声量も声の伸びもストレスなく、歌い上げる箇所では全力での歌唱を聴かせてくれた!!

プラター公園の場面では、長時間逆立ちチャレンジ大サービスもありました。ありがとう育くん!!

 

 

和音さんナンネ、歌声が綺麗で所作も綺麗で、最後の場面では弟に対する愛情と優しさも戻ったように見えて良かったな…!!
でもナンネは今の演出だと見せ方が物足りないんだよなあ。コンスとナンネの物語をもっと対象的にわかりやすく見せてほしいなあ。

 

モーツァルト一家は全員賢く落ち着いていてお互いをとても愛しているので、一幕時点では何故この一家が崩壊するのか分からなかったけど、二幕見てるとそれなりに納得感はあった。
愛していても精神的に依存してはダメってことでしょうか。

 

木下コンス、初めて見るタイプ!毒親のDV家庭で育てられた元虐待児でサバイバーのコンス!!!これはありそうでなかったキャラで目から鱗!!生育環境考えたら妥当で納得で膝打ち!!

ヴォルフのこと愛してるしちゃんと愛し合ってるコンス!毒親に育てられたせいで自堕落な性質が根っこにあるんだけど、ヴォルフと愛し合って結婚して、良い妻になりたいと理性で自分を律して頑張ってるコンス!!

少し前の場面でラブラブだったのにダンやめが始まるのは、うまく演じないとコンスの気持ちの変化が唐突に感じることもあったのですが、木下コンスはその流れに違和感が少なかった!

ダンやめは、ヴォルフがいない部屋で一人になって、コンスの内にいるアダルトチルドレンが表に出てきて歌ったように見えた。

自分の本来の性質を思い切り解放してメンヘラな空気を振りまいてほぼ一曲踊り歌ったものの、最後の最後に一瞬後天的理性と良心、良妻の顔を取り戻して、少しのプレッシャーも感じさせながら、一言「インスピレーション与えなくては…」と静かに歌うの、いいな…いいな…!!!!

その後の場面で混乱するヴォルフに「お前は悪魔だ、お前が悪い、お前が家族をバラバラにしたんだ!!」と詰られた(ように思えた)ことが、このコンスにはそれはショックだったろうなと思う。ヴォルフと築いた新しい家庭を良いものにする為に必死に頑張ってきたのに、ヴォルフは新しい家族の自分よりも元の家族の方を大事にしていて、ヴォルフにとっては自分は家族をバラバラにした悪魔だった。(ヴォルフはアマデに向かって言ってるけど、コンスにはアマデは見えてないので、自分に向かって言われたのだと受け取れる)

木下コンスが冒頭のヴォルフに対して冷淡なコンスに変貌したのは、この言葉が契機だったんじゃないかなと思った。ヴォルフと愛し合ってた仲良しコンスから、冒頭のコンスに自然に繋がった。

 

そして市村パパ。

年々角が取れて丸くなって優しくなって、今回はもう過保護で心配性なだけのただの愛情深いパパでは?と思う。一幕の時点ではパパのどこが悪いのかわからなかった。

一幕の「終わりのない音楽」で既に不穏な空気はあったんですが、今回は二幕の「プリンスは出て行った」で和音ナンネがいきなりめっちゃ病んでて(ビックリしたし怖かった。深い闇!!!)、でもその時は市村パパはまだまともに見えて。

ナンネールは半分壊れちゃったけど、パパは大丈夫なのかな…と思っていたら、「神よ何故許される」の孫のくだりで突然発狂していてビックリした。
お前もか感!!パパーーー!!!パパの気がふれてるーーー!!!怖いーーー!!!

アルコに引っ張られて退場していく所では、挙動や叫び声から「この人はもう完全に耄碌しちゃったんだな」と思わされました。

思わせておいて!!!!!

最後の最後に正気を見せるとかある!!?

ヴォルフとの最後の対面の場面で、「ああでも、もうパパ頭がおかしくなっちゃってるから…最後だけどまともな対話にならなさそう…ヴォルフ可哀想…」と思っていたら、
ヴォルフと決裂して上手に捌けていく時、市村パパ、途中で立ち止まって、少し間をためて最後に「成長した天才を守れる者はいない…」と歌って袖に去って行った。

もう。

壊れたように見せかけていて、実は壊れていなかったということを、最後の出番で見せつけてきて、もう。

今までレオポルトはヴォルフに子供のままでいることを願って自立を阻む、どちらかというと毒親だと思っていたけど、それは自分の支配下に息子を置いておきたかった訳ではなくて、「子供のままなら…守れるのに」という想いからの言動だったんだと今回思った。最初の「奇跡の子」の歌詞から綺麗に繋がって、感動して震えた。

 

市村さん、声量はそりゃ昔に比べれば落ちているけど、音程はしっかり取れているし、滑舌も問題なくちゃんと聞き取れる。何より昔のパパは昔の自分、今のパパは今の自分の肉体年齢に合わせた無理のない演技とキャラ作りで物語に溶け込んでいるのが凄すぎだなと思った。

「老いた親」を前面に出してた気がするんです、今回の市村さん。「生きる」を経て何か変わったのかなと思った。
肉体の加齢も実際にあるんだろうけど、二幕の「神よ何故許される」で白髪になって出てきたレオポルトの動きが、急に「老人」の身のこなしになってたんです。歩き方や姿勢が。鳥肌。

なのでそこからの孫に関するくだりは、レオポルトがヴォルフに見切りをつけた、親として酷い言動だということは変わらないものの、「老いのせいで正常な判断が出来なくなり、言動もより極端になってしまった人」に見えた。感情移入して同情できたんです、レオポルトに。すごい。

市村さんの演技プランと演技力に唸りました…。

 

カーテンコール。

皆での挨拶が終わって幕が降りた後、最後にヴォルフとアマデが二人だけで出てきて、手を繋いで花道を往復した後、アマデがヴォルフのマイク借りて「ありがとうございました!」って言ってくれて会場中が和みました。

更にヴォルフがアマデを抱っこして、二人同時にせーの!って客席に投げキッスしてくれて、観客全員昇天ました。
和んだ…癒された…ありがとう育くん、ようこちゃん。

お二人の東京楽を見られて良かったです!!

 

 

↓大好きウィーン再演版。「並の男じゃない」に入ってるギターの音が最高。コロレド役のマーク・ザイベルトが元気にキレ散らかす歌と演技も最高。ヴォルフとコンスの新デュエット(東宝版未採用)もあるよ! 

 

↓ウィーン初演版。コロレドはUweが私の原点で頂点。