黄金羊の観劇記

観劇・映画・読書の感想を好き勝手に書いてます。東宝・宝塚・劇団四季中心、海外ミュージカル(墺英米)贔屓、歴史好き。

映画「めぐり逢わせのお弁当」感想

Amazon primeに入っていたので視聴。2013年のインド映画です。

今までに見たインド映画といえば「きっと、うまくいく」くらいだったので、宣伝ポスターを見て「この話も「きっと、うまくいく」みたいに元気で幸せな気分になれる明るいコメディなのかな」と思って見始めたら全然そういう作品ではなかった。また日本版制作会社に騙された…。でも内容が面白くて、期待からのギャップまで含めて楽しめました。

 

この映画、コメディではなく硬派な社会派でした。現代のインドの都市生活が垣間見れてとても興味深かったです。カメラワークや描写が丁寧なので、何気ないシーンも細部までじっと見ることが出来ました。孤独や格差、看護問題や貧困、満員の通勤電車という劣悪な環境、密集したビル中に小さく押し込められ、けれど必死に暮らし、生きる人達。

映画といえばハリウッドか邦画、たまにイギリスやフランス製作のものを見るくらいなので、インドの日常生活は見ているだけでで新鮮。異文化体験の面白さ。

「ダッバーワーラー」という弁当配達人の存在をこの映画で知りました。何のためにそんなシステムがあるんだろう?出勤する時にお弁当を持参していけば良くない?余計な手間すぎない??と思いましたが、私はインドには詳しくないしきっとこういう職業が必要とされる社会システムが裏にあったんだろうな、などと推察しましたが本当のところはどうなんだろう。

 

主人公の専業主婦・イナ役の女優さん(ニムラト・カウル)がとても綺麗でスタイルも良く、掃き溜めに鶴状態で、「本当はこんな劣悪な環境と立場で暮らしてるような身分の人じゃないだろ!!?」とツッコミを入れずにいられなかったのはご愛嬌。

もう一人の主役、男やもめ・サージャン役の男優さん(イルファーン・カーン)は壮年の色気がすごい。顔は整っているけど年齢相応のぽっこりお腹をしていて、スタイルは特別良いとは思わないのに、夜ベランダに佇んで煙草を吹かす姿の美しさ。

サージャンの部下で仕事の引き継ぎ相手・シャリク(ナワーズッディーン・シッディーキー)は本心では何を考えているのかわからない、掴みどころのない青年で、最終的に裏切るのか信じられるのか最後までわからず、「こういう人、インドにいそう」という固定観念(偏見)に一番近いキャラだった。腹が立つ気もするけどなんだか憎めない。必死に生きてるとこういう処世方法になっていくのかな。

 

主役二人の表情・演技と、編集のカットの仕方、カメラワークがとてもいい。静かな場面でも飽きないし、音楽も効果的。激しい感情の発露やアクションは何もなく、物語は静かにたんたんと進んでいくのですが、主役二人の演技が抜群に良いのもあって全然退屈しませんでした。抒情的で情感に溢れた映画。

 

そしてなんといってもラストシーンの余韻がすごい。

初見時はしばし呆然としてしまいました。映画館で見ていたら立ち上がるまで時間がかかったんじゃないかと思う。

最近予定調和ハッピーエンドを描く映画ばかり見ていたのか、そういう終わらせ方になれていたので、「そうだ、こういう脚本でもいいんだ。こういう終わらせ方をしてもいいんだ」と目から鱗が落ちました。

「ラストシーンの後にまだまだ続く物語」の内容は観客自身に委ねる作品。

全体の中で一番面白い、一番美味しい、一番のクライマックスはむしろ描かれなかった部分にあるかもしれない物語。

けれどそこはあえて描かずに、その直前で語るのをやめて、後は観客に想像させる物語。

楽しすぎて鳥肌たったし、脳汁ドバドバ出ました。

私はこういう「想像の余地や行間のある物語」の隙間を自分で埋めて広げていくことが大好きなので、個人的にとてもツボりました。

 

イナが作るお弁当を毎回もっと大写しにして、それに対するサージャンの感想を毎回聞きたかったな。(料理に対するコメントは1〜2回しかなかったので)

ラストの余韻を噛み締めながらインド料理店に駆け込んでカレーを食べたくなりました。