黄金羊の観劇記

観劇・映画・読書の感想を好き勝手に書いてます。東宝・宝塚・劇団四季中心、海外ミュージカル(墺英米)贔屓、歴史好き。

宝塚月組「I am from Austria」感想

I am from Austria(以下IAFA)はフリードリヒ・フェンドリッヒというオーストリアの国民的人気歌手の歌を集めて作ったカタログ・ミュージカル。日本でいうとSMAPの名曲ばかり集めて作ったミュージカルって感じなのかな?

2017年にウィーンで幕を開けるや地元の人を中心に大好評、大抵の演目が半年〜9ヶ月ほどで終わる近年のウィーンミュージカルの中で、2019年まで1年半のロングラン上演を行った大当たり演目です。

ぜひウィーンに見にいきたかったものの諸事情で難しく、悲しく思っていたところに宝塚が世界最速海外上演を発表してくれ、飛び上がって喜びました。この演目を海外で、しかも日本で、そしてこんなに早く見られるなんて全く思っていなかった!!日墺友好150周年ありがとう!!

ウィーン版はウィーン弁がわんさか出てきて、ウィーンっ子にしか通じない冗談や皮肉も盛りだくさんの内容だそうで、現地で見てもわからないことが多くて歯がゆかっただろうと思うので、宝塚がそのへんを日本人にも通じるように解説したり改変したりしてくれればありがたいし、IAFAを日本に居ながら日本語で見られるなんて本当に僥倖。 

宝塚がウィーン劇場協会のミュージカルを翻案上演するのは「エリザベート」に続いて2作目ということで、エリザの大成功を思えば嫌が応にも高まる期待。というかエリザ以来2作目というのが意外。もっと色々上演してると思っていましたが、M!もレベッカTDV東宝でしかやってないのか。そうか。

東京のチケットは抽選であっさり外れたので、帰省に合わせて宝塚大劇場まで見に行きました。

11月3日のマチネを2階A席で鑑賞。

総括すると、内容はほぼなくて、キャラは別に魅力的でなく共感も出来ずおバカで空っぽでしたが、
演劇というよりレビューショーを見にいくつもりで行けば楽しめると思います。私はとってもとっても楽しめました。
ハッピーエンドだし、各場面の舞台装置が豪華で派手でカラフルで、ダンスの振り付けも良く、見ているだけで元気が出るので、難しいことを考えずにノリノリなハッピーミュージカルを浴びたい時にオススメ。

ウィーンで人気が出たのも頷ける、パワー!!勢い!!とにかくパワー!!!!という、脚本や演技より豪華さ華やかさ、大きな舞台セットと群舞の質量による力押しでとにかく観客を楽しませる作品。

私はオーストリア大贔屓人間なので、オープニングの映像だけで感極まりました…。ウィーンの観光名所が次々に映し出されるんですよ!!ウィーン大好き人を直撃してくる演出、ありがとう宝塚。

以下詳細な感想。

全体的にミュージカルシーンはすごく良かった!!
宝塚ナイズの仕方が上手い。次から次へと目の前に出てくる舞台装置と振り付けとダンスのフォーメーションがどれもこれも素晴らしく、視覚からの快感がすごい。
どの場面もアンサンブルの振り付けが良すぎるから2階席とてもオススメ。人が多すぎて群舞の場面でどこを見たらいいかわからなくなってしまいがちだったし、宝塚って2階で見る方が全体を見られて良いかもしれないと思いました。もちろん1階で間近でダンスシーンを見たら迫力が凄そうなので、機会があれば1階席でも見てみたい。

ショー場面で一つだけ贅沢を言うなら、マッチョマッチョ…マッチョマッチョは!!マッチョマッチョというムキムキマン達が筋肉を披露しまくる場面があるのですが、ここだけはリアル男性で見てみたいと思いました!!(この場面、何の知識もなくウィーンで見てたら衝撃で頭真っ白になってたと思う)

オペラ座舞踏会の場面は、参加者達の衣装がおかしいと思ったら、登場人物が歴代宝塚演目に出てきたキャラ達の衣装を着ているみたいで、スカーレットとかシシィとかアントワネットとかいたらしい。気付かなかった!!宝塚詳しい人は楽しめる小ネタなのかな?ウィーン版はどうだったんだろ。

そしてショー以外の!!歌と音楽のない芝居部分は!!

残念ながら虚無りがちでした!!!!…うーん。
ヒロインは…愛希れいかさんで見たいな…彼女だったらどんな演技するかな、と思ってしまった。ごめんなさい…
演出家か演技指導者か誰か突っ込まないの…?間延びしてテンポ悪くしてる演技場面が所々挿入されてて気持ち悪い、惜しい…あれらさえなければとても良い演目なのに…!!
ミュージカルシーンだけを繋げて作ることは出来なかったんだろうか…ショー部分のクオリティの高さと芝居部分の痛さの落差…!!
でもミュージカルシーンのクオリティの高さ、刮目してみよこれが世界の宝塚だ!!ばーーーん!!!と圧倒してくる舞台上の物量はすごくて本当に良いので、早く歌と音楽が始まらないかなと思いながら、芝居部分はやり過ごす感じで見てました。

アンサンブル含めて大人数で歌う場面は良いのに、主役二人のどちらかのソロや二人のデュエットになると一気に落ちるパワー、下がる歌唱力、キャラの魅力や意志を感じられない芝居、見ていて虚無になる観客。つらい。
本来もっと笑える演目だと思うし観ている間もっと笑いたかったんですけど、芝居部分が虚無なのでおおかたは滑って寒いことになっているのがなんだか居た堪れなかったなあ…。
正直トップコンビよりパパとママの方が歌も演技も安定感があって良かったし、どうしてこの人たちがトップじゃないんだろう…?と思ってしまいました。ごめんなさい。
珠城さんは今まで観てきた演目(グランドホテル、カンパニー、雨に唄えばエリザベート)ではそこまで酷いとは思わなかったんですが…愛希さんと美弥さんの力は大きかったのかなあ…。
トップの歌と場面が多すぎた気もします。全体のバランスを悪くしていてくどかったし、2番手3番手4番手にもっと振り分けて欲しかった…ここも元のウィーン版はどんな風だったのか気になる。トップを偏重するのは宝塚の好きじゃない点なので、構成はウィーン版の方が好きな予感がしている。

そんな感じでだいぶ辛かったIAFAの芝居部分とキャラクターですが、好きなキャラもいました。まずパブロ!!
パブロ…なんて良いキャラしてたんだパブロ…一幕ではまだ気付いてなかった魅力が二幕で爆発…あんなん好きになるに決まってるじゃん…ずるいですよあれは…。
カタコト喋りの面白キャラかと思ったら普通に良い人で目も手付きも優しく、終盤はただの素敵な人感が端々から滲み出てました。やばい。

あとフェリックス!!ソロがあるのもびっくりしたけど、歌も演技も上手くてびっくりした!歌い方が良かった!!ウィーン版のフェリックスもCDで聴く限りまあまあ演技を出しながら歌っていたけど、それより更に演技寄りに歌ってて、でも下手って訳ではなくてとても良かったんです!!風間 柚乃さん素晴らしい!!
歌い方がウィーン版と違ったので、最初は旋律を聴いて「あの曲こんな内容だったの!!?!?」とびっくりしたけど、月組版の方が好きな気がする…!!
フェリックスのソロだけはウィーン版より月組版が好きだと思った!!すごいよ風間さん!!
パブロとフェリックスに関しては歌も演技も安心して見られて、オペラ座の場面からは主役二人放ったらかしでこの二人ばかり目が追いかけてしまいました。この二人を注視する為にリピートしたいと言っても良い。ありがとうパブフェリ…

そしてフィナーレ。
好きすぎました…ありがとうございますありがとうございます。
大階段で!!オーストリアを主張!!!
真っ赤な服の二番手と娘役トップに挟まれる真っ白な服のトップ!!
三人並んでオーストリア国旗ーー!!!とかもう何を見せられているのかと。

最高のショー演目の最後を飾るに相応わしい大階段のフィナーレでした。天にも昇る心地。ありがとうジェンヌさん、ありがとう舞台製作者の皆様、ありがとうIAFA招聘に尽力してくださった方々、ありがとう宝塚歌劇団、ありがとう小林一三先生。

歌はやはりウィーンキャストの方が断然上手いので、ぜひウィーン版も聴いてほしいですッッッ!!!

宝塚版を先に見て話と場面を頭に入れた後で、ウィーン版CDを聴いて名曲につぐ名曲コンボを堪能して欲しい!!それがIAFAのオススメ鑑賞法!!

I Am From Austria - Das Musical Mit Den Hits Von Rainhard Fendrich

I Am From Austria - Das Musical Mit Den Hits Von Rainhard Fendrich

 


というのも、主役二人が歌う主題歌!!一番好きな曲なのに、月組版では聴いてて一番ずっこけました!!辛かった!!

歌詞がメロディに乗ってなくて、日本語の雰囲気や内容も突然それまでの内容からズレた感があって辛!!

主題歌、歌詞の和訳と解説をブログに書いてくださっている方がいるので、お時間がある方はIAFAは鑑賞前にぜひこの方の記事を読んで頂ければ幸いです。


IAFA、個人的には見に行って大正解大満足、ぜひショーを楽しみに行って欲しい、他人にもおススメしたい演目なのですが、芝居のほかにもう一つ注意点が。
IAFAはオーストリア&ウィーン推し推しの作品で、そこが魅力でもあり、私のようなオーストリア大好き人間はその空気がまた嬉しくもありがたく浸っているだけで至福になれるものの、
愛国主義の匂いを感じる人ももしかしたらいるかもしれない。
私はそういう意図(ナショナリズムの高揚目的)で作られた作品ではないだろうと思いましたし、この内容のない、ショーが楽しいだけと言っても良い作品に、扇動を感じ取らなくても良いのでは…と思うものの、私が能天気なだけかもしれない。なんとも言えません。
実際移民への拒否感や排斥などが問題になっているオーストリアで大人気になった、現地の人たちにウケた理由の一つにはウィーン愛はあると思うし、それはナショナリズムとどう違うのかと言われると、根本は同じものだと思うので返答に窮する。つらい。
作中にホームレスが出てきて、「彼らも同じオーストリア人」と言われるのですが、じゃあ外国人のホームレスはどうなるんだとか。主題はそこではないし、個人的には気にするところではないと思うんですけど。これ例えば日本を舞台にした作品で「彼らも同じ日本人」と言われれば日本の観客はするりと受け入れるのではないか、そんなに反発しないのではないかと思ったりもするし。
IAFA、そういう点はそんなものだと受け入れて割り引いて、こう…ちょうどよい心の距離感で眺める心意気で観ると良い感じに楽しめると思うんですけど…!!難しい!!

上のブログの解説にもあるように、「I am from Austria」と、主題歌はサビの部分が英語で歌われています。
こんなにオーストリアとウィーン推しの演目なのに、一番大切な主題歌のサビ、そしてタイトルは英語なんです。ドイツ語ではなく。
そのあたりに、私は作曲者のフェンドリッヒやこの舞台の製作者が、
「栄光の日々も最悪の時も過ぎ去り、今は顧みる者も数少なくなった、小さな母国オーストリアは、この世界において二度と世界に覇を唱えることも、脅かすことも、決定的な影響を与える力を持つこともない揺るぎない弱者である。そしてそんな母国を、それでも我々は誇りに思い、帰りたいと願い、哀れにも愛しくも思う」
という気持ちを込めているように感じる…

小さく収縮してしまった母国、自分の夢を大きく描きそれを叶えたい人々はそこを出るしかない、捨てざるをえないという国ですよ。この美しい曲の、一番感情を込めて歌うサビの部分を、母国語で歌えない状況にいる人々ですよ。そんな人達が故郷を思って歌った歌だと思うから泣ける。
ドイツ語、ましてやウィーン訛りのそれに堪能でない私などは、この曲を聴いていても大部分は何を言っているのかわからない。
けれど、サビの部分の「I am from Austria」は何を言っているのかわかる。それまでずっと意図不明瞭な異星人の言語のようだった音が、急に聞き取れて、意味もわかる。この一言だけ。それ以外のたくさんのことは別に伝えなくてもいい、自分だけが知っていればいい、他人にはこの一言を伝えるだけでいい。私はオーストリアから来た、それだけ知っていてくれればいいという気持ち。もしくは、それだけは覚えていてほしいという気持ち。などなど空想する。


ナショナリズムは苦手だけれど、愛郷心には大いに共感できる。…やっぱり難しい。
IAFA、色々考えるきっかけになると思えば、一つの観劇体験としても悪くないのかな。

LeCinq(ル・サンク) 2019年 11 月号 [雑誌]

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(追記)

 ウィーン版のBlu-rayが日本語字幕付きで発売されたぞおおおおおおおおおおお!!!!!皆見てくれーーーーーーーーーーーッッ!!!!!!!!!