黄金羊の観劇記

観劇・映画・読書の感想を好き勝手に書いてます。東宝・宝塚・劇団四季中心、海外ミュージカル(墺英米)贔屓、歴史好き。

ナショナルシアターライブ「リーマン・トリロジー」感想

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ナショナルシアターライブ「リーマン・トリロジー」を見てきました…

お…おおーーーん!!!おおーーーーん!!!!(終演後色々な感情が波と押し寄せて呻いた)

 

2008年に経営破綻したリーマン・ブラザーズの始まりから終わりまでを描いた物語ということで、最後は悲劇だと見る前からわかっていたので、胸を抉る系の物語かと思って見る前は身構えていたのですが、実際見てみると意外とそんなことはなく、見終わった後はすっきりとした気持ちになる物語でした。

 

 

俳優が全員演技が上手い!!!!!

脚本が良い!!!!!
演出が最高!!!!!

これは「演劇の楽しさ、素晴らしさとはなんぞや」という問に対するお手本のような答え!!!

 

まず舞台に出てくる三人の役者、全員めちゃめちゃめちゃめちゃ演技がうまい。

女性や子供の演技が特にすごい。赤ちゃんに見えるし淑やかな女性に見える。声の作り方や所作がプロ。
こんな演技の上手いおじさん達の舞台を見せられたら若手の舞台に物足りなさを感じるようになってしまっていけないと思います!!
世界が演技力のある高齢の素晴らしさに気づいてしまう!!いいですねもっとください!!!

いやほんと演技力は舞台の上では絶対的強さで正義だな…って思いました…。

 

そして演出と脚本が巧すぎてビビる。

一幕も面白かったけど二幕から世代間の移行が始まってこれがまた面白い。
すごいなこの脚本書いた人。全ての役を三人でこなせるように書かれているんですが、どの役を誰にやらせるか書いてて頭こんがらがらない???

この舞台のスピード感とテンポの良さ、そして笑いの全ては3人きりの役者で全役をやっているおかげだと思う。

同じ脚本でも各キャラに一人役者を振って総出演人数30人以上とかの舞台で演出ももっと具体的だったら全然面白くなかっただろうので、三人という削ぎ落とし切った数の役者で演じられるように全場面を構築した脚本家に敬服する。


演出・衣装・年齢性別を飛び越えて演じる役者という、想像力に委ねられてることの幅が大きい舞台だから、観客は目の前のものを見ながら、想像で視覚を補って頭の中でイメージ(画)を描くという作業をしないといけなくて、能動的な動きが入るから眠くならないし余計面白いのかな。

他に、脚本のテンポの良さ、役者の喋りのうまさ、台詞(言葉)の面白さ、カメラワークと切り替えのタイミングのうまさ、各人のキャラ付けとキャラ立てのうまさ、ラストはわかるけど途中は先の読めない展開も観ていて眠くさせない要素。

めっちゃ上手い役者とシンプルな舞台セットでこんなに面白くなるんですね〜。旧演出のレミゼといいダディといいリーマントリロジーといい、あとナショナルシアター版フランケンシュタインもだけど、「見立て」を使うシンプルでスタイリッシュな演出は舞台の醍醐味を感じられて大好きです。

 

(以下物語後半のネタバレを含む感想)

 

 

 

 次から次へと展開する話の筋、成功譚や資本主義の描写も面白かったけど、兄と弟、父と息子という人間関係の部分が一番面白かったかなあ。
人間が新しく生まれて、成長して、歳を取って亡くなって行く過程が全部描かれて、それぞれの年代が全部見事に演じられているのも良かった。
だからフィリップとボブに一番感動したかな…エマニュエルも好きだった。

ヘンリー兄さんはもっと長生きして欲しかったなあーーー!!!一人だけ早逝すぎじゃない!!?寂しいよーーおにいちゃーーーん!!!!

 

この舞台を見たらリーマン三兄弟大好きになっちゃいますね…。
フィリップなんかは現実に存在したら私は確実に苦手なタイプなんですけど、舞台上でデフォルメされて更に老年の悲哀まで描かれてるから好きにならずにいられないんだよなあ。

 

場面&演出はボビーのツイストが一番好きでした。

踊る三人は可愛いし後ろで高速で展開していく数字は怖いし緊張感もすごくて。

 

ホビーが亡くなって経営陣に創業者一族がいなくなった時点で、三兄弟が興して一族で築き上げてきた「リーマン・ブラザーズ」という会社は終わってくれていたのが良かったなあ。
おかげで最後の破綻の場面で全然胸が痛まなかった。なるほどなあ〜…。
この構成ならリーマンが一族主役でも確かに良いなあ。

せっかく先祖が苦労して築き上げた会社や国を子孫が失敗してダメにしちゃうって話だったら悲しいじゃないですか…先祖も子孫も…。
ボビーの退場後、最後はリーマン家とは関係のない人達のやり取りになっていたので、特に誰かに感情移入することもなく心穏やかに破滅を迎えられて良かったです。(良くはないですが)

 

 

作中の台詞は登場人物達の生の声ではなく、視点が神であって本人ではない三人称の言葉を登場人物の口から出させていることが多く、最初は面食らいましたがこの台詞の内容が言葉の面白さに満ちていて、同じフレーズの繰り返しや伏線の張り方、回収の仕方がまた上手くて字幕で言葉を追うだけで面白い。

良い言葉はたくさんありましたが、中でもラストの言葉…!!!!
最後の台詞、「アメリカの夢を見る」で号泣しました。うおーーーーん!!!!!

皆亡くなって会社も終わって全てが泡と消えてから、最後にまた最初の三兄弟が出て来た時に尊さで泣いてしまった。
だいたい初代は尊いんやどんな物語でも…。

 

リーマントリロジー、非常にカロリーを消費する演目で、終演後めっちゃお腹が空きました。まあ単純に上演時間も長かったんですが。(3時間半以上あった)
役者さんもピアノ伴奏の方もめちゃめちゃ大変そうですよね。1回全力でやるだけで満足してぶっ倒れそう。
あれを連日やってたとか考えられないけど連日やってたんでしょうか。怪物か?

 

 

そう、音楽はピアノだけだったんですが、どの場面にもそっと寄り添うように自然でかつ効果的な音楽が使われていてこれも凄いなと。

 

舞台を構築する全ての要素がハイレベルの凄い舞台でした、リーマン・トリロジー

日本語字幕付きで見られて良かったです!!ありがとうナショナルシアターライブ!!